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有事関連3法案の参議院における論議の概要
1.経過
平成15年 5月15日 (木) 衆議院本会議で修正議決、参議院へ送付
  5月19日 (月) 参議院本会議で趣旨説明質疑
参議院事態対処特委で趣旨説明聴取
  5月20日 (火) 参議院事態対処特委で質疑(全閣僚出席)
  5月22日 (木) 参議院事態対処特委で質疑
  5月23日 (金) 参議院事態対処特委で質疑
  5月26日 (月) 参議院事態対処特委で質疑
  5月27日 (火) 参議院事態対処特委で質疑
  5月28日 (水) 参議院事態対処特委で質疑
  5月29日 (木) 地方公聴会(福井、横須賀)
  6月2日 (月) 参議院事態対処特委で質疑
  6月3日 (火) 参議院事態対処特委で質疑(午後参考人質疑)
  6月4日 (水) 参議院事態対処特委で質疑
  6月5日 (木) 参議院事態対処特委で質疑(午後総理質疑)、
討論、採決、附帯決議
  6月6日 (金) 参議院本会議で可決・成立(13日公布)
2.主な論議

(1) 衆議院修正

  1. 武力攻撃事態の定義
      従来の武力攻撃事態を、「武力攻撃事態」と「武力攻撃予測事態」に二分したが、発生・おそれ・予測の定義については従来の解釈に変更ないことを修正案提出者は認めている。
     また、小泉総理は、法案作成の段階から、発生・おそれ・予測は分かりくいと思っていたが、修正され、私の常識の方が健全だった、と答弁し、福田内閣官房長官も確かに分かりにくかったと答弁した。
  2. 基本的人権の尊重
      武力攻撃事態対処法案の「基本理念」に憲法14条等の規定は最大限尊重されなければならない旨の規定を盛り込んだ。
      修正の意義について民主党修正案提出者は、明文化することで基本的人権の尊重は前進したとの認識を示したが、自民党の修正案提出者は、入念的に書いたものと答弁した。
      列挙されていない他の人権については、それらも最大限配慮されなければならないと修正案提出者及び福田官房長官は答弁した。
     民主党提案の六項目のうち四項目しか明文化されていないことについて自民党の修正案提出者は、残りの二項目が損失の補償等に関係する問題であるので、これは国民保護法制を作るときに対処すればいいと判断したと答弁した。
  3. 事態対処法制の整備期限
     
    衆議院修正において、「施行の日から二年以内」を「速やかに」とし、さらに衆議院特別委の附帯決議においては、国民保護法制について「施行の日から一年以内」とした。残る法制の整備期限を質したところ、小泉総理は武力攻撃事態対処法案成立後、地方公共団体や関係する民間機関との本格的な調整を進め、早期に整備します、と時期を明言することを避けた。
  4. 国会の議決による対処措置の終了
      政府原案では、対処措置の終了については、政府の責任において行うとの趣旨から、国会の関与は規定されていなかったが、民主党の要求で、内閣総理大臣が対処基本方針の廃止につき閣議の決定を求める場合として、「国会が対処措置を終了すべきことを議決したとき」を加えた。この修正について、福田内閣官房長官は、自衛隊の活動を含む対処措置の開始だけでなく、その終了についても国会の関与を法的に担保するもので、国会と政府の統一的な意思の形成が一層重視されると答弁した。
  5. 危機管理組織
     
    民主党が提案した危機管理組織については、武力攻撃事態対処法案の附則に「…組織の在り方について検討を行う」という条文が追加された。これについて自民党の修正案提出者は、手本としている米国のFEMAは災害対処が主であること、常設の機関を置くことの是非などを踏まえ、各国の例を検討したいとし、また、民主党の修正案提出者は既存の組織の整理統合を実施し行革に反することのなく、国家的危機に対応できる組織をつくりたいとそれぞれ答弁した。検討の時期については、福田内閣官房長官は、今明確に申し上げられるような段階でない、と答弁した。
  6. 基本法
     民主党が提案した基本法については、4党覚書の中で「…四党間で真摯に検討し、その結果に基づき、速やかに必要な措置をとる」とされた。
     基本法の必要性について、民主党の修正案提出者は、憲法に緊急事態に関する規定がない以上、基本法のようなものをしっかり作って、そこに基本的人権の尊重規定、民主的統制の在り方、危機管理組織などを書いた基本法が必要と考え衆議院に基本法案を提出したと説明した。他方、自民党の修正案提出者は、災害対策基本法や原子力災害特別措置法との関係をどう整理するのかといった問題などが残っているとの考えを明らかにした。
     また、小泉総理は、緊急事態に係る基本的な法制が必要であるとの考え方は十分共有するものであり、今後、政府としても、今回の合意にある必要な措置について真摯に検討したい、と答弁したが、必要性についての明言は避けた。

(2) 国民保護法制

  1. 指定公共機関
      指定公共機関として指定が想定されている日本赤十字社については自主性・公平性・中立性を尊重する観点から、また民間放送事業者については報道の自由の観点からそれぞれの指定の是非について質疑が行われた。
      福田内閣官房長官は、日本赤十字社については、避難住民等の救援、医療の提供、それから外国人の安否情報の提供などを指定公共機関の対処措置とすることを想定しており、これらの措置はいずれも日本赤十字社の本来業務と言えるものばかりである、また、日本赤十字社は自ら作成する業務計画に基づいて自主的な判断により活動するものであることから、日本赤十字社の自主性、公平性、中立性に影響を及ぼすものではない、総理の「指示」は想定していないと答弁した。民間放送事業者については、その放送の内容について、警報、武力攻撃事態等の状況、避難の指示の内容を考えており、これらは国民の被害を最小限にするために必要なものであり、放送の自立性、報道の自由を損なうものではないと答弁した。

(3) 対米支援、国際人道法の的確な実施のための法制

 国民保護法制と同様に、今後整備される事態対処法制の内容についての質疑が多く成されたが、政府は武力攻撃事態対処法成立後検討するとして、具体的な内容は明らかにしなかった。

(4) 自衛権行使の発令権者

 防衛出動と自衛権発動はそれぞれ要件が異なることから、自衛権発動の手続、発令権者について質された。石破防衛庁長官は、自衛権の発動としての武力の行使を行うか否かの判断は、最高指揮監督権を有する内閣総理大臣が行うもので、その判断をする際には閣議の決定が必要である、その運用については早急に検討しなければいけないと答弁した。

3.残された課題

(1) 武力攻撃事態等における米軍の行動

  • 安保条約五条に基づき米軍が共同対処を行う際に、日本側と協議はいつ、どこで行われるのか。
  • 日本側の要請は、どの程度尊重されるのか。
  • 対処基本方針に米軍の行動に関することが記載されるのか。
  • 自衛隊並に米軍の行動を規制する取り決めは必要ないか。
    (特段の取り決めがない限り、米軍には国内法は適用されない。政府は米軍は国際法等にのっとり行動するので、基本的人権を不当に侵害することは一般に想定されないとしているが、同じことは自衛隊にも言えることである。)

(2) 周辺事態との併存の事態における対米支援の在り方

  • 最も蓋然性の高い事態であるにもかかわらず、米軍の行動及びそれへの対米支援の内容が明らかになっていない。
  • 周辺事態法は、戦闘地域では支援は行わないことになっているが、日本に対する武力攻撃の「おそれ」「発生」は、日本の領域が戦闘地域(「おそれ」の場合は将来なる)と考えれば、おそれの事態から周辺事態法に基づく対米支援はできなくなるのではないか。
  • 対米支援は、それぞれの法律に基づいて別個に実施すると答弁しているが、米軍の行動自体が切り分けて実施されない可能性が大きく、対米支援をそれぞれの法律に基づいて行っても目的外に使用されるおそれがある。
    (例えば、特に予測事態・おそれの事態と併存している事態における警戒監視・情報収集・部隊の集結・物資の集積は、周辺有事及び日本有事の事前行動の両方の側面がある)

(3) 指定公共機関への強制性

 指定公共機関に対する指示については、義務は生じるが強制ではないとされている。
しかし、指定公共機関に指定されると、「業務計画」を国の定める基本方針に基づき作成しなければならず、国の計画に組み込まれることになり、罰則がなくても、事実上強制的なものになるのではないか。業務計画を作成しなかった場合の取扱いはどのようになるのか。
また、指定に当たっては、当該企業の意向(諾否)は反映されるのか。

 

(4) 今後整備される事態対処法制の内容

 事態対処法制にいついては、政府内に法制ごとに作業チームを設け、検討を行っていた。「国民保護法制」については、本年4月18日に明らかにされているが、その他の「自衛隊の行動の円滑化のための法制」「米軍の行動の円滑化のための法制」「国際人道法の的確な実施」(「捕虜の取扱いに関する法制」「武力紛争時における非人道的行為の処罰に関する法制」)については、内容が殆ど明らかになっていない。
 また、整備期限については、「二年以内」が「速やかに」に修正されたことから、法施行後「一年以上二年未満」ということか。国民保護法制については、法施行(6月13日)後一年以内となっているが、一年後(来年の6月12日)に提出されても、参議院選挙等が控えており、成立は困難である。来年の常会で成立するよう、早期の提出が臨まれるのではないか。

(5) 危機管理組織・基本法制

いずれも「検討」することになっているが、その検討期限も明らかでなく、方向性も不明である。

 

(6) 自衛権発動のための閣議

 自衛権発動は、閣議の決定に基づき総理が判断することになっているが、その閣議をいつ行うのか。迅速に行うために予め(例えば、防衛出動の閣議の際) 閣議決定を行うことを考えているのか

 

(2002年5月27日)