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外交防衛委員会質疑
(2002年6月6日)
- 斉藤 勁
福田官房長官は我が国の国是である非核三原則の見直しを示唆する発言をしたが、改めてどのような発言をしたのか、非核三原則に対する認識を含めて尋ねる。
- 福田内閣官房長官
5月31日の記者会見で、憲法と核の関係を聞かれた際の私の発言が、非核三原則を見直す可能性を示したと受け止められた。これは全く私の真意とするものではなく、現内閣では非核三原則の変更や見直しを考えているわけではない。今後の課題としても検討しているということでは全くない。私の発言は、国の安全保障の在り方についてはそれぞれの時代、状況、国際情勢等を踏まえたさまざまな国民的な議論があり得るということを言ったわけで、報道されているように、政府として今後の方向性を示したとか示唆したとか、そんなことではない。
- 斉藤 勁
過日の安倍官房副長官の発言、そして今回の官房長官の発言は、傍ら有事法制法案を提出しながら、国是である非核三原則の見直しを想定しており、小泉内閣は危険極まりない内閣という印象を受けざるをえない。
- 福田内閣官房長官
正確にどういうふうに言ったか覚えていないが、非核三原則の変更とかそういうものを示唆したとか、そういう方向性を示唆したとかは毛頭考えていない。政策を変更するように取られてしまったことは誠に残念、遺憾だと思っている。
- 斉藤 勁
官房長官が三原則も変わることもあるかもしれないということを発言することは大変な意味を持つ。官房長官発言は、三原則の変更を示唆したと明確に受け取れる。そういう認識に立つのが常識ではないか。
- 福田内閣官房長官
三原則があって、政府の各政策を変えられるような状況にはない。しかし、三原則の変更を示唆するかのように報道されてしまったことは誠に残念の極みだ。
- 斉藤 勁
真意が伝わらないのではなく、国際情勢の変化や国民がもつべきだとなれば、三原則も変わることもあるかもしれないということを官房長官自身が発言している。これは事実だ。
- 福田内閣官房長官
我が国は核兵器を持たず、作らず、持ち込ませずという非核三原則を歴代内閣は何回も説明して明確に表明しており、今後も堅持していくという立場に変わりはない。我が国はNPTも締結し、核兵器保有のオプションも放棄した。大量破壊兵器、とりわけ核兵器のない平和で安全な世界の早期実現をめざして、毎年、国連総会への核廃絶決議案の提出、CTBT、包括的核実験禁止条約の早期発効に向けた働きかけをするなど、積極的な外交努力も行ってきており、核兵器に関するこうした我が国の姿勢は揺るぎない。
それに、条約上の義務に加え法律上も、原子力基本法によって我が国の原子力活動は平和目的に厳しく限定されており、このような観点から観ても、我が国が核兵器を保有することはない。そういうことを前提としたうえで、いろんな議論があって、その中でそういう言葉が出て、それをもって示唆したとか政府の政策の変更だとかいうような報道は、ちょっと違うのではないか。
- 斉藤 勁
官房長官発言の報道は、外交上大きな失点だと思う。不用意な発言であなた自身、真意を説明せざるをえない状況に追い込まれているではないか。あなたは核兵器保有について、法理論上、(憲法には)持てないとは書いていないということを言っているが、その根拠を示せ。
- 福田内閣官房長官
我が国が自衛のための必要最小限度を超えない実力を保持するということは、憲法九条二項によっても禁止されてはいない。そのような限度の範囲内でとどまるもので限り、核兵器であると通常兵器であるとを問わず、これを保有することは憲法の禁ずるところではないという解釈を政府は取ってきたが、以上の憲法解釈とは別に、政府は唯一の被爆国としての立場からも政策として非核三原則を堅持している。
- 斉藤 勁
核兵器保有について、法理論上というのは憲法だということになるのか。
- 福田内閣官房長官
そのとおりだ。
- 斉藤 勁
核兵器に対する官房長官の認識は。
- 福田内閣官房長官
核兵器というのは、核兵器だ。
- 斉藤 勁
そんな答弁はない。官房長官、核兵器に対する認識をきちんとした説明を。
- 福田内閣官房長官
いわゆる核による放射能により大量殺傷を可能とするそのような兵器だ。
- 斉藤 勁
官房長官、再度確認するが、核兵器保有について法理論上持てないとは書いていないということについての法的根拠、その根拠法令は憲法なのか。
- 福田内閣官房長官
憲法上、核兵器を保有することは憲法の禁ずるところではないという解釈を政府は取ってきている、それを申し上げた。
- 斉藤 勁
核兵器は自衛のための必要最小限度の範疇には入らないと思うが、どうか。
津野内閣法制局長官 昭和五十三年参議院予算委で示した政府見解をよく見てもらうとわかるが、仮にこの限度内にとどまるものがあるとすればという条件を付けている。核兵器についての科学技術は日進月歩、随分変わってきている部分もあるが、仮にこの限度内にとどまるものがあるというようなことが仮にあるとすればというあくまで仮定条件付きであり、現実にそれが現在の核兵器についての専門的な知見は、私自身こたえる力がない。
そこは軍事の専門家の意見を聞いてもらいたい。
- 斉藤 勁
これは重大な問題だ。核兵器は攻撃的な兵器だ。核兵器を自国内で使うか。国内で使用することを前提に核兵器を保有している国はどこにもない。我が国は法理論上も政策上も核兵器を持てない、だから、原子力基本法にも明記しているのではないか。官房長官が法理論上、核兵器を持てるというなら、原子力基本法第二条の「平和の目的に限り」の「平和」の意義をどのように考えるのか。
- 津野内閣法制局長官
原子力基本法第二条の「平和の目的」は、非軍事と一般的には解される。
- 斉藤 勁
防衛庁長官、核兵器は本質的に攻撃的な兵器ではないのか。
- 中谷防衛庁長官
その点については議論をする実益がない。我が国は核兵器を保有していないので、この見解については法制局長官の言うとおりだ。
- 斉藤 勁
核兵器は本質的に攻撃的な兵器ではないのかという私の質問に、誰でもいいから答えてほしい。
- 中谷防衛庁長官
昭和四十八年にもこのような議論があり、「非常に小型な核兵器であるとか性能が非常に弱いような核兵器というものがもし開発されるとするならば、そのようなものは防御的な核兵器と呼ばれるのではないか」という答弁がある。これについては、核地雷が当時研究されており、このような答弁があった。現実的には核地雷は現在、開発が完了したという話しはないが、そのような防御的な核兵器と呼ばれるものがあるのではないかという義論はあった。
- 斉藤 勁
今小型の核弾頭、核爆弾が世界中にあるのではないか。そうすると我が国は核兵器を持てるのか、法理論上とはそういう意味か。
中谷防衛庁長官 このとき例としてあげているのが核地雷ということで、それを念頭に答えている。
- 斉藤 勁
法制局長官、今の防衛庁長官の答弁はどうなのか。
津野内閣法制局長官 憲法九条の解釈ではそういうことがあるが、我が国は核不拡散条約に加入しているから、現実の問題として核兵器を保有することは考えられない。そういう意味では、保有するとか保有しないとかという議論は全く関係がなく、現時点において保有しないことが明確になっている。
- 斉藤 勁
防衛庁長官や法制局長官の答弁ではよくわからない。私の質問は、核兵器は本質的に攻撃的な兵器なので、法理論上も政策上も我が国は核兵器を保有できないのではないかということだ。
- 中谷防衛庁長官
一切の核兵器について、政府は国是である非核三原則によってこれを保有しないことにしているので、法律上も条約上においても厳しく制限されている。さらに、NPT条約を結んでおり、非核兵器国として核兵器の製造や取得などを行わない義務を負っており、以上のことからご指摘のようなことを議論するのは実益がないと考えている。
- 斉藤 勁
我が国は法理論上、核兵器を持てないということでいいですね。
- 津野内閣法制局長官
いや、法理論上と言われると、これは原子力基本法も条約も含めて考えられるので、これは法理論上持てない。ただ、憲法九条の解釈の下では政府の従来からの解釈で、我が国は固有の自衛権があり、自衛のための必要最小限度の実力を保有することは憲法によっても禁止されているわけではない。したがって、核兵器であっても仮にこの限度内にとどまるものがあるとすれば、それを保有することは必ずしも憲法の禁止するところではないと。他方、この限度を超える核兵器の保有は憲法上許されないものであるというふうに、憲法上の議論と現行の法律上あるいは条約上の議論を分けている。
- 斉藤 勁
私は防衛庁長官が法制局長官の前に答弁した内容でいいと思うが、長官、再度答弁を。
- 中谷防衛庁長官
政府は従来から自衛のための必要最小限度を超えない実力を保有することは、憲法第九条二項によっても禁止されておらず、したがって、自衛のための必要最小限度の範囲内にとどまるものである限り、核兵器であると通常兵器であるとを問わず、これを保有することは憲法の禁ずるところではないという解釈を取ってきている。しかしながら、一切の核兵器については、政府は国是である非核三原則によりこれを保有しないこととしており、法律上および条約上においても、原子力基本法により我が国の原子力活動は平和目的に厳しく限定され、さらに核兵器不拡散条約、NPT上の非核兵器国として核兵器の製造や取得などを行わない義務を負っているので、ご指摘のようなことを議論するのは実益がないと考えている。
- 斉藤 勁
それは法制局長官答弁と同じことを言っているのではないか。
- 津野内閣法制局長官
今、防衛庁長官が答えたのは、昭和五十三年三月十一日の真田内閣法制局長官が政府として答弁した。
これを丁寧に見ると、一、政府は従来から、自衛のための必要最小限度を超えない実力を保持することは憲法第九条第二項によっても禁止されておらず、したがって、右の限度の範囲内にとどまるものである限り、核兵器であると通常兵器であるとを問わず、これを保有することは同項の禁ずるところではないとの解釈を取ってきている。
二、憲法のみならずおよそ法令については、これを解釈する者によっていろいろの説が存することがあり得るものであるが、政府としては憲法第九条第二項に関する解釈については、一に述べた解釈が法解釈論として正しいものであると信じており、これ以外の見解は取りえないところである。
三、憲法上その保有を禁じられていないものを含め、一切の核兵器について、政府は政策として非核三原則によりこれを保有しないこととしており、また、法律上及び条約上においても、原子力基本法及び核兵器不拡散条約の規定によりその保有が禁止されているところであるが、これらのことと核兵器の保有に関する憲法第九条の法的解釈とは全く別の問題である。
と、最終的にこういった政府の統一見解を示した。
- 斉藤 勁
それは知っている。私は、「自衛のための必要最小限度を超えない実力を保持することは憲法第九条第二項によっても禁止されておらず、したがって、右の限度の範囲内にとどまるものである限り、核兵器であると通常兵器であるとを問わず、これを保有することは同項の禁ずるところではない」との解釈は修正し、我が国は核兵器を保有できないことを明確にすべきだと思うが、いかがか。
- 津野内閣法制局長官
自衛のための必要最小限度を超えない実力を保持することは憲法九条二項によっても禁止されていないということがあり、したがってその限度の範囲内にとどまるものである限りという限定条件が付いているわけであるから、その条件の中で現実のいろいろな適用の問題は考えていくべき問題であるから、理論としては、あるいはこの法律、憲法九条二項の解釈としては、これはこれで全く間違いではないと考えている。
- 斉藤 勁
原子力基本法二条の「平和の目的に限り」ということについてはどうか。
- 津野内閣法制局長官
原子力基本法は、真田法制局長官の答弁にもあるが、まず、第二条で、我が国における原子力の利用は平和の目的に限られる旨を明らかにしているから、原子力を殺傷力又は破壊力として用いることは同法の認めないところであり、同法は核兵器の保有を禁じていると解される。すなわち、核兵器の保有が原子力基本法に違反するものであることは言うまでもないので、我が国が核兵器を保有することは法律上許されていない。これが原子力基本法の第二条、いわゆる平和の目的に限られるということの内容だ。斉藤 勁 先ほどからの政府答弁は、八十四国会の法制局長官答弁の域を出ておらず、私は極めて不満に思う。核兵器を保有できるとする政府の憲法解釈は問題であり、私は憲法上も核兵器の保有は禁じられていると理解している。
- 斉藤 勁
福田官房長官の非核三原則見直し発言が、内外に与えた影響は大変大きいと思うが、外相の所見は。
- 川口外相
我が国が非核三原則を堅持していることは、歴代内閣がずっと表明してきているわけで、今後もこれを堅持していく立場に変わりはない。この点については、近隣諸国に今までもきちんと説明をしてきたつもりであり、今後も説明し続けていくつもりだ。今回のことについては、近隣諸国に説明をした。
- 斉藤 勁
防衛庁の個人情報リスト作成問題は、最終的に調査が終わって国会に全貌を説明するのか。
- 中谷防衛庁長官
現在、法律面での問題を含め調査を行っており、可能な限り速やかに調査を完了し、その結果を報告したいと考えている。
- 斉藤 勁
思想、信条の自由という最も基本的な憲法原則が防衛庁内部では無視されるということが明白になってきている。市民が行政を監視し、チェックするという情報公開制度を悪用し、監視されるべき側が監視を嫌って市民を監視するというのは、防衛庁組織の体質の問題ではないか。国防の最先端に立つ組織で、長官の指示が下に行かないのは問題だ。長官の責任は極めて重大だと思うが。
- 中谷防衛庁長官
現在、徹底した調査によって事実関係を明らかにすることに全力を尽くしている。個人情報保護を適正に行うのは当然であり、国民のみなさまが安心して情報公開ができるような仕組みを作っていくために全力投球をしていくことが私に課せられた最大の責務であると考えている。
(参議院記録部作成の会議録情報をもとに編集。文責・斉藤 勁事務所)