「復興人道支援室」への文民派遣に反対する理由
第一に、「イラク戦争」そのものが、国連憲章に違反し、国際法上も正当性がないことです。
加えて、米国が「戦争終結」を宣言していないことです。
戦争状態が依然として続いているところに、日本が要員を派遣することはどんな理由があっても不可能です。
第二に、占領行政への参加は憲法違反であるからです。
「復興人道支援室」という名称にごまかされてはいけません。
ORHAは、米国防総省の機関であり、イラクでの軍政を担う米中央軍の指揮下にあるのです。
軍事占領と占領統治を担う組織ですから、日本がこの組織にたとえ文民であれ要員を派遣することは、「占領行政は交戦権の一部」とするこれまでの政府の憲法解釈に反することになるのです。
日本は、過去の侵略戦争の反省から一切の戦争を放棄し、その趣旨を徹底するために戦力を保持しないこと、交戦権を認めないことを憲法第9条に定めています。
憲法で定める「交戦権」には、敵国領土の攻撃、船舶の臨検・拿捕のほかに占領地の軍事占領も含まれています。
「交戦権」に関する従来の政府解釈でも、憲法第9条第2項の交戦権とは、「戦いを交える権利という意味ではなく、交戦国が国際法上有する種々の権利の総称」を言うとされ、相手国領土の占領、及び占領行政などを例示しています(1980年5月15日稲葉誠一衆議院議員の質問主意書に対する答弁書)。
したがって、他国による交戦権行使の一環である占領行政と一体となるような行動に参加することは、他国による交戦権行使と一体化するものであり、これは憲法9条が禁止している交戦権の行使につながることになるのです。
つまり、日本がORHAに要員派遣することは、たとえそれが文民であっても憲法が禁じている交戦権の行使に他ならないのです。
政府は、交戦権の解釈について最近、
「交戦国ではない日本が国際法にのっとった米軍の暫定統治に協力することは交戦権の行使にはならない」(4月15日参議院外交防衛委員会 林外務省条約局長答弁)
「わが国はイラクの事態に関して武力行使の当事者であったわけではない。派遣される者が文民の場合は、わが国が武力の行使を行うという評価を受けることも想定し難いので、そのような意味からも憲法9条との関係で問題が生ずることはない」(同 宮崎内閣法制局第一部長)としています。
こうした答弁は、交戦権に関する従来の政府見解を国会審議もないまま事実上変更するもので認められません。
また、占領行政については、「占領に伴い必要となる…統治行為」であり「(占領と)概念的に別」のものです(いずれも4月17日参議院外交防衛委員会での宮崎内閣法制局第一部長答弁)。
占領行政は、軍事的色彩が濃いものとは言えないものの、占領を背景としているものであり、文民・軍人が共同して行うものである以上、そこでの行為は文民・軍人と分けて評価されるものではありません。
したがって、ORHAへの要員派遣は、文民・自衛官を問わず憲法9条が禁止する占領行政と一体となるものであり、認められないのです。
フセイン政権崩壊後の暫定統治は国連中心で
イラクはいま、米英両軍の攻撃で国土は破壊され荒廃しています。フセイン政権は崩壊し、略奪や放火などが相次ぎ治安が悪化しています。食糧事情を改善し、上下水道、電気、ガス、医療などのライフラインを早急に再建し、民生を安定させなければなりません。そのためにも国連やNGOを中心とした人道援助・復興支援が急がれます。
イラクに暫定的な統治機構が必要であることは論を待ちません。
問題は、国連憲章と国際法に違反して一方的・先制攻撃をした米英両軍が占領行政を続けることは、フセイン独裁から米英両軍の軍事独裁に代わるだけで、イラク問題の真の解決にはつながりません。
イラク国民が自主的かつ民主的に自国を再建するために国際社会が協力することこそがいま求められているのです。
したがって、米英両軍を直ちにイラクから撤退させ、国連を中心とする暫定統治機構を一日も早く確立するために日本は可能な限りの外交努力をすべきです。
民主党はORHAへの文民派遣支持を撤回し、再度党内論議を
以上見てきたように、ORHAへの文民派遣は、憲法に違反するだけでなく、国連憲章と国際法に違反する米英両軍による「イラク戦争」を再び日本が支持することにつながります。
ORHAへの文民派遣について、民主党は党内論議を十分しないまま支持を決めました。
今回の政府の派遣決定の背後には、「武力行使と一体とならない協力は合憲」とする論理があり、これに基づいて政府は国連平和維持活動(PKO)協力法を92年に成立させ、99年には周辺事態法、2001年にはテロ対策特別措置法を相次いで成立させ、自衛隊の海外派遣の範囲と内容を拡大させてきています。
このような政府の動きをみれば、今回の決定も「はじめに派遣ありき」であることは明らかです。
野党第一党である民主党が、憲法や国会を無視した政府の派遣決定について、十分なチェック機能を果たすことなく派遣支持を打ち出したことは、国民の目には政府・与党がすることへの現状追認としか映りません。
先の統一地方選挙でわが党が予想以上に伸び悩んだのは、政府・与党との対抗軸をはっきり示せなかったところに原因があると私は思います。
「与党でも野党でもない”ゆ党”」などと揶揄される状態から一日も早く抜け出し、政権を任せられる政党になるためにも、政府・与党との対抗軸をはっきり示すことが求められています。
そのためにも、ORHAへの文民派遣支持を直ちに撤回し、今後部門会議などで徹底した党内論議を保障するよう党執行部に強く求めます。
以上
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