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現代会民主主義研究会会報「展望」第12号原稿
■22回研究会報告(07.9.13)
 2007年秋季特別講座 参院選の結果と政権交代の可能性  斎藤つよし(元参議院議員・民主党)
 
  参議院議員選挙は、「自民党の歴史的大敗、民主党の参議院第1党進出」という結果になりました。安倍首相は、自民党内の一部や世論の「責任退陣」論にも耳を貸さず、いち早く政権継続を表明し、自公連合、衆議院議席の3分の2制圧、参議院での与野党逆転というあらたな政治構図のなかで、この国の政治はどこへゆくのか? が問われていました。

 しかし、臨時国会が始まった冒頭、予定された代表質問開始前に安倍首相は突然辞意を表明。ポスト安倍は、結局福田康夫に決まったものの、民主党が参院第1党に躍り出た「逆転国会」という戦後政治に類を見ない異例の事態を受けて、これからの日本政治はどうなるのか? 自らも参院選を戦った元参議院議員の斉藤つよしさんを招き、大いに語っていただきました。(編集部)

 :演題は「参院選後の日本政治と安倍辞任後の政局」でしたが、録音状態が悪く、「逆転国会下の参議院の新たな役割」など語っていただいた部分は割愛、再編集させていただきました。

 
■統一地方選の結果から予想できた民主党の参院選勝利
 参議医選挙を振り返ってみると、投票率ですが、選挙区選挙で58.84%、比例区選挙で58.63%と、前回比でそれぞれ2%以上上昇しています。亥年で統一地方選挙が重なる年は、自己の選挙運動の疲れで地方議員の動きが鈍化するため投票率が下がるというジンクスがありますが、初めて破られました。また、6回連続で6割を割る過去6番目の低さでしたが、前回の選挙にやや引き続き上昇しています。
 統一地方選挙の結果となると古くなる話しですが、4月10日付の毎日新聞の「与党、民主躍進に警戒感」では、44県議選における参院選1人区での増減を分析していますが、民主が議席を伸ばしているのに対し、自民が減らしていることが分かります。また、6月4日の「朝日新聞」でも、「自民、足元悲鳴」とあり、自民の地方議席減・支持率落ち込みの深刻さを紹介しています。この統一地方選挙の結果が今度の参議院選に結びついていることが理解いただけるかと思います。
 「表」は神奈川県の自治研センターで出した資料ですが、ご覧になると今度の参議院選挙の特徴が理解いただけるかと思います。
 東京でも選挙区で2名が当選。そして埼玉、千葉、神奈川、愛知でもそれぞれ定数3、あるいは5名区ですが、2名当選というたいへんな状況でありまし。中でも、特徴的なのは定数1の全国での29議席の行方だったかというふうに思います。結果を見ると、野党系23、与党系6で、野党系23の内訳としては、民主党が17、国民新党1、無所属5、諸派1となっています。20004年は議席数で見ると、与党が16、野党が15ですから、今回の選挙は野党が「逆転」という表現にとどまらず「圧勝」しており、自民党は、1950年に結党して以来、初めて国政第1党から転落したという選挙であったと思います。選挙結果が、1人区の状況に象徴的にさまざまと示されたと思います。統一地方選挙の結果と比較しても、民主党の県会議員がいままでいないところで参議院の議席を得ているというところに「民主党圧勝、自民党大敗」という結果があったと思います。
 
■党内や地方からの批判にも安倍「続投」の背景に、
        小泉前首相の激励と経済界の厚い支援があった
 参議院選挙の投票日に、都内で森元首相、青木参議院会長、中川幹事長が会談して、開票の数字をみながらシュミレーションをしていて、敗色濃くなった時点で、「誰が安倍に(首相辞任)の鈴をつけ行くか」ということで、三者の間で協議し「あなたが行くしかないのではないかと」いうことで中川幹事長が官邸に行ったところ、麻生がすでに官邸に入っており、麻生は安倍首相に「続投」の話をしていて、安部も「いかなる選挙結果になろうとも、絶対に首相は続けます」と中川に言明したとのことです。すでに、安倍首相は選挙終盤に小泉前首相と電話でやりとりをしていて、小泉が「(参議院選挙で)負けたって、要は総選挙でがんばればいいのだ」と、安倍首相に対して激励をしたというのが事実のようです。安倍首相は「どう退くかと」いうことについても、常に小泉前首相と相談をしていて、安倍首相は、選挙戦中盤の世論調査の結果からたべた負けするということをわかっていて、あらかじめ続投の腹を固めていたようです。
 最近、上杉隆さんが『官邸崩壊』という本を出し売れているようです。本を読むと、“お友達”内閣(第一次安倍内閣)の「お友達」がいなくなって安倍さんが寂しくなっていたのがわかります。本からは、親しいのが与謝野官房長官であり、麻生さんであることが分かりますが、麻生さんと仲良くなったのはつい最近のようです。安倍さんと頻繁に会っており、安倍さんが一番官房長官にしたかったのは菅義偉さんです。なぜ菅官房長官が実現できなかったかというと、報道されているように、菅さんの事務所費の問題です。僕は、誰かはわからないが、菅さんを官房長官にさせないために、誰かが事務所問題をリークして邪魔したと思っています。菅義偉さんは、安倍さんの同士・理解者で、「再チャレンジ議員連盟」の事務局長をしていましたから、相当ショックだったようです。
 日本経団連など経済三団体が早々と安倍続投支持しました。彼等は、夏休みに首相の東南アジア訪問に随行するかたちで視察団を派遣したのですが、そこで彼等と安倍首相の間で、具体的に何が話し合われたのかはよくは知られておりません。大橋光夫・昭和電工会長(経団連政治対策委員長)が、朝日新聞の取材に、「自民党大敗をどう受け止めるか」ということでインタビュー「サプライズではあるが、ビッグサプライズではない。首相の10カ月の実績は、そう悪くはない。経済界構造改革のスピードに関心がある。いま政局が混迷するより、改革の継続を期待している」と答えています。今の経済界が何を思っているかということをきちんと認識しなければならないと思います。
 選挙後に、自民党の15県連が「これでは総選挙を戦えない」ということで安倍辞任の声を挙げました。これが、安部が辞める、辞めないということにどれだけ反映したのかは本人が発言していませんのでわかりませんが、勝手なものだなと私は思います。安倍が登場した時には、あれだけ歓呼の声を上げて、選挙の顔は安倍しかいないということで、全国で安部コールがあったのですが、今度は、安部では戦えないというのです。
 
■小泉政治の魔術が解けたことと政府の半世紀への国民不信が自民大敗の要因
 有識者の選挙結果に対する主な見解については、それぞれの切り口の違いはありますが、ここでは、山口二郎さん(「東京新聞」07年7月30日夕刊「参院選を読む))、田中愛治さん(「日本経済新聞」07年8月2日「経済教室」)、飯尾潤さん(同07年8月3日)を紹介させていただきます。
 山口二郎さんは「小泉政治という魔術が解け、人々は政治の本来の役割を思い出した」
と言っています。安部政権が続投するという渦中の記事ですが、いまでも通用する認識かと思います。
 田中愛治さんの「政府の半世紀に国民不信」という記事を大変興味深く見させてもらいました。田中さんは「今回の参院選の結果は、安倍政権下の10カ月の業績評価というより、過去50年の政府与党の業績に対する不信を国民が表明したものとみるべきだ」と述べています。自民党の支持基盤の変化と投票行動ということについてのデータ、「団体加入率と自民党得票率」、「投票率による与野党得票率のシミュレーション」という図も興味深く、参考になると思います。
 飯尾さんの「政権選択可能な環境作れ」という文書ですが、飯尾先生の持論として「大連立」ということが出てくるのですが、学問的にはともかく、私は政治家の一人として、ここはなかなか現実的にはなじまない議論ではないかなと思います。ここでも「期間を限定した大連立も選択肢」と述べています。
 参議院選挙結果とそれを基にした衆議院選挙のシュミレーションということですが、最近共産党が第5回中央委員会総会で、次期衆院選の小選挙区について、擁立する候補者を大幅に絞り込む方針を明らかにしたことが報道されています。参院選比例区での同党の得票率が8%以上の小選挙区に絞るという基準を持ちながら、各都道府県ごとに最低1人以上は擁立するとの新基準を公表したことです。
 東京都内で言うとどうなのですか、得票率8%以上の選挙区は。大体みんな8%以上ではないかと思います。神奈川県ではいくつかあるのかなというくらいです。しかし、都市部以外では相当あるのではと思います。朝日の記事ですが、共産党は03年の衆議院選挙では全小選挙区に、05年は275区小選挙区に候補者を立てたが全敗だったが、05年の衆議院選挙では、民主と共産の両党候補の得票を足せば、現実にはありえないことと思いますが、
当選した与党候補の得票を上回る小選挙区が約40あったということです。
 雑誌『世界』の10月号で、どなたかのコメントで、2大政党制になって政権交代を求めなくてはならないけれども、共産党なり社民党の存在は必要で、どうやったらこれらの政党がこれからの中央政治、地方政治で生き抜く活動をしていくのかということを真剣に考えなければならないし、とりわけ政権交代という意味では、民主党自身が、共産党なり社民党との共同の政策や活動について、また国会では野党が結集して与党にあたることを、真剣に考えなければならないのではないかということを話している記事を見ました。
 自公が完全協力の場合には与党と野党が伯仲し自公の強力が6割の場合は、民主党が大勝で286議席を獲得するという分析もありますが、次の選挙がいつだろうということもありますが、今のまましっかりやっていけば次の衆議院選挙では政権交代が可能になることはほぼ間違いないと思います。今度の参議院選挙の結果というのは、間違いなく、政権交代が可能という大変大きな実績を残した選挙であったとことは、はっきり言えるのではないかと思います。
 
■政権交代は可能。しかし、国と地方一体の政権戦略と候補者の吟味が必要
 私は、政権交代は十分可能だと思いますし、今回の統一地方選挙や参議院選挙の結果からも、そういえると思います。しかし私自身、社会党から社会民主党、民主党をつくりいろいろな活動をしてきましたが、地域にしっかり根づかせた政党づくりをして、しっかり支援者の声を聞くという双方向の対話がなければ、本当の意味での政治の大転換はできないと思っています。
 政権戦略というのは「中央」で考えることかもしれませんが、政治の転換は中央と地方が一体となっておこなっていくことが必要であり、政権戦略ということについてもはこのことをしっかり押さえやたうえでたてなくてはならないと思います。
 レジュメに、「誰が首相になっても動じず、冷静に対応を」と書いたのは、誰が首相になろうと、いま国民の暮らしはどういうところにあるのだとことに目線を持ち、臨時国会でも、政策的にしかりとした対応が求められていると思っているからです。民主党が、臨時国会で、「政治資金規正法」「労働契約法案」「年金保険料流用禁止法案」など新たな法案を準備していることは、皆さんもご存じだと思います。政策づくりにおいても、政党(民主党)は、法案作成にむけて運動づくりしていくという視点、市民の声をしっかりと受けとめ政策に反映する仕組み作りが必要と考えます。民主党は、このような作風が不十分で、社会運動との連携や共闘があまりに希薄すぎます。市民は法案づくりに積極的に関与し、
政治家をしっかりと使う、政党は政策づくりや法案づくりにおいても社会運動とリンクさせる、ここは私がいま思っている政治のスタイルです。
 重要なのが、「情報戦略」と「法令順守」ということです。法令遵守(コンプライアンス)で言えば、政権交代を射程においているのですから、しっかりした人が必要です。この点について、私が在職中ビデオを作ったりしましたが、非常に苦労をしました。今度の衆議院選挙ということでいえば、現在約110人近い候補者が未決定ということなので、これを埋めるとなればたいへんなことです。私も、選対委員長をやったことがありますから、国会議員候補者の擁立にあたって、すごい数の人たちと面接したことがあります。こういう時代ですから候補者になりたい人は多くいるのですが、その中には、民主党に公募したけどだめで自民党から出たという人もいます。候補者の擁立にあたっては、何でもありではなく、よく吟味をしなければいけないと思います。
 「情報戦略」についても、これは岡田さんにも、菅さんにもいろいろ言っているのですが、なかなか実現しないのです。ブレアに政権交代するとき、特徴的だったのは、ワンフロアにあらゆる月刊誌、新聞などのさまざまなメディアを招き入れ、政治に関すること、経済に関すること、さまざまなことを常に情報を集約して、このことについては誰がコメントをするのか、あるいは、瞬時にコメントすることか、時間をかけてコメントすることかなど戦略的に対応していたということです。いまはコンピューターも普及していて、そんなに金のかかる話ではないのですから、要は決断とスタッフの問題だと思います。
 
(文責:本稿は、当日の斉藤つよしさんの講演を編集部の責任においてまとめたものです。状勢認識などは講演時点のものです。文章表現上等の責任はすべて当会にあります)
 
■講師:斎藤つよし
 1945年神奈川県横浜市生まれ。1965年横浜市役所に就職。神奈川大学第二法学部卒業。
87年横浜市議会議員(2期)を経て95年参議院議員(神奈川選挙区)。郵政解散で小泉総理に挑戦するために総選挙に立候補。2007年参議院議員選挙(比例区)に立候補するが惜敗。民主党に所属。10年間の参議院議員時代は分権・平和・税制などを中心に活動。交通情報通信委員会委員長、議院運営委員会筆頭理事、予算委員会筆頭理事、テロ防止特別委員会筆頭理事、イラク事態特別委員会筆頭理事、外交防衛委員会筆頭理事などを歴任。